10月の読書記録

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10月はノンフィクション 5冊、フィクション7冊で合計12冊。まんが4冊を加えて16冊。
 

ノンフィクション(5冊)

📔『日系人の歴史を知ろう』/高橋幸春/岩波ジュニア新書
★★★★☆
明治期および終戦後に南米に移民した日本人たちの話。そして80年代後半以降に「日系人」のビザで日本に逆に出稼ぎに来て住み着いた新移民たちの話。わたしは愛知県三河地方という、南米日系人の一大センターのひとつの生まれなのだけど、商業都市である岡崎市の出身だからか、90年代頭にはもう愛知を離れてしまったからか、「在日ブラジル人」という存在にあまりピンと来ないのだけれど、彼らへの差別が、日本人の世界に対する無知が原因で起きていると言う話はベトナム人からも聞いている。本書では「サンパウロのジャングルには象はいるのか?」「ブラジルにいたころから洋服を着ていたのか?」という、あまりにひどい質問が取り上げられていたが、私の知り合いのベトナム人でも日本に技能実習生として行ったときに、「ベトナム人って手でご飯を食べるんだと思っていた」と言われて傷ついたというケースを知っている。

また南米移民の始まりが、明治の地租改正(国富政策)による農村の食いっぱぐれ発生から始まっていることなど、近年話題になっている「資本主義が人を殺す」話ともつながっているなと思った。また、終戦時に南米で起こった「勝ち組・負け組」の争いについても大きく紙面が割かれており興味深かった。

「日本ではよく国際交流イベントがあります。でも、その多くは外国文化や外国人を珍しいもの扱いするだけ。本当の交流はお互いに影響を受け合うものだと思う。『外国ではこんな考え方をしますが日本ではそうしません』では本当の交流ではない」


 

📔『ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢』/松岡かすみ/朝日新書
★★★☆☆
取材可能性からいって仕方のないことかもしれないが、取り上げられているのはみんな「地頭がよく、欧米でのセックスワークビジネスで成功し、その中で他人に対する慈愛から精神的・心理学的なものに目覚めた人」ばかりであって、かなりの片手落ちのように感じられた。まぁ、騙されてミャンマー・ラオス国境に連れて行かれて奴隷扱いされてボロボロになった人、みたいなのは取材困難だもんなあ。

「日本の風俗業界は、男を喜ばせるために男が作った、男のためのシステムという感じ。私が日本で働いてきた店は、すべてオーナーは男性で、決定権や主導権は男性が握っていました。サービスをするのは女性なんだけれど、ただの〝捨て駒〟という感じ」

私も東南アジア在住なので、こちらの売買春事情を知らないわけではない。やはり日本のこういうところは欧米と比べてどころか、アジアでも若干異質な気がする。

そういえば私は昔、某衛星放送のアダルトビデオ番組情報誌に連載をもっていたことがあるんですが、その連載のタイトルは『期待の監督・話題の女優』でした。当時から「男性は期待してもらえるけど、女性は流行が終わったらおしまいか」と感じていましたね……。


 

📔『過疎ビジネス – コンサル栄えて国滅ぶ – 』/横山勲/集英社新書
★★★★★
ここここ、これはすごい。東北の過疎の自治体が「町興しコンサル」に食い物にされていく様子を、人名・会社名・自治体名はっきり明記で暴いていくドキュメンタリー。作者は河北新報の記者。さすがに日本一の反骨新聞。ふるさと納税とかいう税の精神を完全無視したクソ制度も絡んで、とんでもない搾取と詐欺が横行しているのだなあ。

そもそも、「稼げる〇〇」という新自由主義的発想がおかしいのよな。自治体に資本主義的競争させちゃダメでしょうが。


 

📔『戦国誕生』/渡邉大門/中公新書
★★★★☆
以前にunlimitedで読んだものを改めて購入。嘉吉の乱から明応の政変まで、室町幕府が少しづつ実体を失っていく時代についての本。なかなか多岐にわたる濃ゆい内容で読むのも大変でした。何度も読み直す系の本ですね。


 

📔『ドキュメント クマから逃げのびた人々』/三才ブックス
★★★★☆
三才ブックスの著者無記名ムックにしてはきちんとした本でした。ボリュームは少ないけど。


 

フィクション(7冊)

📔『群青に沈め』/熊谷達也/角川文庫
★★★★☆
先月読んだ「翼に息吹を」のシリーズと言っていい作品。こちらは神風特攻隊ではなく、人間機雷「伏龍」の話。主人公はまだやんちゃで一人称も「僕」の10代。その主人公とコンビになるのは世の中を舐めきった感じの軽佻浮薄な若造。勇ましく集められた特攻基地には雑な作りの潜水服こそあれど、肝心要の機雷が……あるのか?ないのか? 終戦詔勅後基地の規律はどうなっていくのか、と前作に続いて作者が「いかにも」な作品にならないように趣向を考えて特攻を描いている。


 

📔『たまごの旅人』/近藤史恵/実業之日本社
★★★☆☆
軽~い小説です。新人海外旅行ツアーアテンダントを描いた連作。


 

📔『天使はモップを持って』/近藤史恵/実業之日本社
★★★★☆
こちらもかなり軽~い小説。若くてキュートなお嬢さんがなぜかビルの掃除婦を勤めており、その彼女と知り合った若いサラリーマンのコンビが日常の謎を解いていく、といったもの。


 

📔『三人屋』『サンドの女 三人屋』/原田ひ香/実業之日本社
★★★★★
面白かった! 両親の遺産である商店街の古い喫茶店を継いだ仲の悪い三人姉妹が、朝は三女が喫茶店を、昼は次女がうどん屋を、夜は長女がスナックを、と顔を合わせないように別れて営業する通称「三人屋」を中心に描かれる人情もの。書かれている内容は、不倫、駆け落ち、セックス、ゲイ、パトロン……はては借金のカタによる年季奉公と下世話な内容ばかりのはずなのに、まったく下品さも下世話さもなく、ごく普通に「愛すべきひとびとの、当たり前な営み」のように書かれているのが素晴らしかった。


 

📔『シャトゥーン ヒグマの森』/増田俊也/宝島社
★★★☆☆
北海道である山奥の研究所に集まったひとびとが次々にクマに襲われるサスペンスホラー。まぁ面白かったけど、後半、主人公強すぎでは……。


 

📔『ある少女にまつわる殺人の告白』/佐藤青南/宝島社
★★★★☆
児童虐待ものサスペンス。はー、絶望的な気持ちになります。


 

まんが(4冊)

📔 『新九郎、奔る!』(21)/ゆうきまさみ/ビッグコミックス
★★★★★
中央では明応の政変の完了、細川京兆家内衆の不和の始まり、足利義材の逃亡あたりを。新九郎周辺では長尾景春改メ僧・伊玄が上杉定正の取次として(今川の人間としての)新九郎に接近、足利義澄から茶々丸討伐の命が(勝手に)発せられる、葛山一族との縁組……あたりまで。


 

📔 『山を渡る -三多摩大岳部録-』(8)/空木哲生/HARTA COMIX
★★★★★
新人3人の夏の大試練・アルプス縦走編終了。このへんでストーリーもおしまいかと思ったら安達監督からの雪山への誘い。安達監督、タレ目チビお姉さんだけど山つよつよパーソンという最高のキャラですな。


 

📔 『こわいやさん 』(1)カメントツ/ジャンプコミックスDIGITAL/
★★★★★
なかなか面白い。


 

📔 『ヴィンランド・サガ』(29)/幸村誠 /アフタヌーンコミックス
★★★★★
20年に亘る大連載ついに完結。21世紀日本の歴史に残る大作の一つだと思います。


 

年間累計

ノンフィクション フィクション 非まんが合計 まんが 月の総計
1月 8 15 23 12 35
2月 3 7 10 4 14
3月 4 4 8 9 17
4月 9 5 14 3 17
5月 9 10 19 7 26
6月 9 2 11 3 14
7月 7 9 16 14 30
8月 6 6 12 12 24
9月 0 8 8 6 14
10月 5 7 12 4 16
累計 60 73 133 74 207