ベトナム国内のメコン川について

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メコン川は遠くチベットに端を発し、中国、ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジアを経てベトナム南部から南シナ海(ベトナム名は「東海」)に注ぐ大河です。
 

流れ


メコン川はカンボジアでは北から南に流れ、首都プノンペンの南で3本に分岐します。1本は北に向かいトンレサップ湖へ(季節によって流れる向きは逆になります)、本流は東へ、1本は「バサック川」の名前で南へと流れていきます。
 

ベトナムでは本流が「Sông Tiền」(ティエン川・前川)、バサック川の流れが「Sông Hậu」(ハウ川・後川)と呼ばれます。漢語ふうに Tiền Giang(前江)・Hậu Giang(後江)という言い方もありますが、これはベトナムの省の名前として使われており、川の名前として実際に使われることはないようです。
 

Sông Tiền の流れ

Sông Tiền は最終的には6つの河口から南シナ海へと注がれます。

ヴィンロン省ヴィンロン市周辺で、Sông Cổ Chiên(コーチェン川)が南へと別れていきます。コーチェン川はベンチェ省とチャーヴィン省の境を形成し、Cửa Cổ Chiên(コーチエンの戸)、Cửa Cung Hầu (クンハウの戸)と呼ばれる2つの河口から南シナ海に注がれます。

Sông Tiền からは、さらに25kmほど先でSông Hàm Luông(ハムルォン川)が南へと別れていきます。ハムルォン川はベンチェ省の真ん中を流れていき、南シナ海に注がれます。

ハムルォン川の分岐後、Sông Tiền は Sông Mỹ Tho(ミトー川)と名を変えます。

ミトー川からすぐに Sông Ba Lai(バライ川)が分岐します。この川は非常に細い川ですが、同じ水系であるベンチェ川や Giao Hòa運河と複雑に合流し、ある程度の大きさの流れとなって南シナ海に注がれます。

その後ミトー市の東12kmほどの場所で、ミトー川から Sông Cửa Tiểu(クアティエウ川)が北のほうへと分岐します。ミトー川本流のほうは Cửa Đại(大戸)と呼ばれる河口から、クアティエウ川の方は Cửa Tiểu(小戸)と呼ばれる河口から南シナ海に注がれます。

Sông Hậu の流れ

Sông Hậu は河口まで35km程度の場所で2つの流れに別れますが、その2つの流れには特に名前がついていません。というのも、昔はもっと浸水域がひろく、河口を作る支流も4本あり、海・川・陸の境界が曖昧だったからのようです。川上から見て左岸は cửa Định An(ディンアンの戸)、右岸は cửa Trần Đề(チャンデーの戸)と呼ばれる河口を成します。また中洲に残る支流 Sông Cồn Tròn(丸中洲川)の河口は Cửa Ba Thắc (Cửa Bassac)=バサック河口と呼ばれています。このあたりはクメール人の多い土地なので、カンボジア風の名称が残っているのでしょう。

その他の流れ

メコンデルタは巨大なひとつの水系となっており、上記の8大支流の他にも、いくつもの小中河川・運河が網の目のように走っています。カントー市のカントー川やベンチェ市のベンチェ川のように、主要都市の近くにはたいてい都市名と同じ河川が流れています。
 

名称

ベトナム語でも「メコン」(Mê Không)という呼称は使われますが、これは外来語なので、国際的な河川開発問題であるとか、気象問題について話し合う際にしか使われません。ベトナム語での一般的な名称は sông Cửu Long(クーロン川、キューロン川、漢字では九龍川)です。またメコンデルタのことは Đồng Bằng sông Cửu Long(九龍川平野)と呼ばれています。前川の6箇所の河口と、後川の2箇所+バサック河口を合わせて「9頭の龍」に見立てた名称です。
 

交通


2000年代~2020年代にかけて、省都レベルの場所ちかくには大きな橋ができています。※川幅が狭く架橋が容易なバライ川は省略

  • ティエン川
    • カオライン橋(ドンタップ省カオライン市) 2018年5月開通
    • ミートゥアン橋(ヴィンロン省ヴィンロン市)2000年5月開通
  • ミトー川
    • ラックミエウ橋(ティエンザン省ミトー市) 2009年1月開通
  • ハムルォン川
    • ハムルォン橋(ベンチェ省ベンチェ市)2010年4月開通
  • コーチェン川
    • コーチェン橋(チャーヴィン省チャーヴィン市の北)2015年5月開通
  • ハウ川
    • ヴァムコン橋(アンザン省ロンスエン市の南)2019年5月開通
    • カントー橋(カントー市)2010年4月開通


橋の数はまだまだ少ないため、ほとんどのエリアで一般的な交通機関として渡し船が使われています。また橋ができた場所でも、巨大な斜張橋は荷車や自転車では通行できないので古くからの渡し船が残されています。渡し船の規模はバスやトラックが数台乗れるようなものから、軽トラック1台がせいぜいといったものまでまちまちで、数キロメートルおきに運行しています。渡し賃はバイク+1名の場合、広いところで20千ドン、狭いところで10千ドン程度です。
 


また、渡河以外の水上交通も発達しており、陸上交通がまだ不便なハウ川より南の地域(特にカマウ省やキエンザン省)ではベトナム語で canô (カノー)と呼ばれる高速ボート網が発達しており、ベトナム最南端のダットムイ岬からカントー市やラックザー市まで、川・運河を縫って走る高速船で大抵の場所に行くことができます。かつてはカントー市とホーチミン市ですらこの高速ボートで結ばれていました。
 

私の渡河した場所

2023年5月現在。赤い星は渡し船、青い星は橋です。
 

私の乗った高速船路線

  • キエンザン省ラックメオ船着き場~キエンザン省セオニャウ
  • キエンザン省セオニャウ~キエンザン省アンビエン県ドンタイ
  • キエンザン省ラックメオ船着き場~カマウ省カマウ市
  • カマウ省カマウ市~カマウ省ダットムイ岬
  • キエンザン省ヴィントゥアン~カントー市ニンキェウ船着き場