つれづれ日本語ベトナム語 ~日本語の「水」ってどういう意味?

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ベトナム語の基礎的な語彙の意味を深く掘り下げ、ネイティブが普段深く考えない日本語の表現についても学び直す記事の第一弾です。

 

この違和感ある「水」

ベトナム人に日本語を指導したことのある方なら、この違和感のある文章を見たことがあると思います。

「わたしは喫茶店でを注文します」

私は当初、彼らの言わんとしている内容が、「喫茶店でコカ・コーラ社の Aquafinaのような drinking water, mineral waterを注文する」ことだと思いこんでいて、「日本では喫茶店で水だけ注文する人はいませんよ」と指導していたのですが、ベトナム語を知るに連れて、彼らが口語で使う「」が、「飲み物 (Đồ uống)」をも指しているのだと解ってきました。たとえばオフィスでまとめてジュースやコーヒーをデリバリーしてもらう時、gọi nước(直訳:水を呼ぶ)と言います。

普段辞書で「」と訳されるベトナム語の「nước」。ベトナム語を学ばれたことのある方には分かって頂けるでしょうが、ベトナム語ではモノを指す語は非常に単純明快・シンプルであることが多いです。このためベトナム語には液体を総称して「nước」と言ってしまう文化があり、つまり、飲み物の総称としても「nước」なる語を使うので、それを直訳して彼らは「」だと言ってしまっているのです。

日本語の「水」とは何か? 他に液体を指す語は?

日本語の「水」を「nước」と訳すのは、ベトナム語を学んだ日本人、日本語を学んだベトナム人のすべてが知っていることでしょう。しかしこの単語にはおおきなズレがあるのです。

日本語の「水」とはどんな意味でしょうか? もちろん日本語にだって、「水」を「液体の総称」とする考え方がないわけではありません。あなたが「石油」を、ごくごく簡単な日本語しか知らない外国人に説明する時、どう言うでしょうか? おそらくあなたはこう言うでしょう。「石油とは、燃える水のことです」。しかし、日常生活では、液体の総称として「水」を使うことはまずないでしょう。

では、水とは何でしょう? ここでは辞書に頼らずに、日常感覚で考えていきたいと思います。私達がふつうに「水」と呼ぶものは……

「水」:飲料水(またはそれに何かを足したもの)、水道水、雨や川や海などの自然にあって人間が利用できる水、染み出したり濾過されたりした体液(関節に水が溜まる)

あたりではないでしょうか。もちろんベトナム語では、これらもおおむね「nước」です、ではそれ以外に液体を指す日本語はどのようなものがあるでしょうか?

「汁」:植物や動物の体液、食品の部分を構成する液体(ラーメンの汁)、何らかの物質かからにじみ出た液体

「汁」の守備範囲はこんなところでしょうか。もちろんベトナム語では、これらも「nước」です。この「汁」を「水」と言ってしまうと、日本語ではちょっと気持ち悪い感じがすると思います。たとえば

「ココナッツのを飲みます」

これもベトナム人がよく間違って言う言葉なのですが、これを聞くたびに私は、「野外に打ち捨てられたココナッツの殻に溜まった雨水かなにか」を飲むところをイメージしてしまい、気持ち悪くなってしまいます。日本語では温かいものは水と呼ばないので「ラーメンの水」も相当気持ちが悪いです(あるいは製麺時の様子を想像する場合も)。

「つゆ」:「汁」に近いが、比較的きれいなもの、少量のもの。抽出されたもの。

これはあまり汁と区別しなくてもいいかもしれません。「あさつゆ」は大気の水分が抽出されたものですね。

「液」:医学、科学、加工された液体(少量)、飲食用以外の製品としての液体、ただしH2O純度が低いもの

H20純度が高くて大量のものものは「浄水」「処理水」のように「水(すい)」を使うのかもしれないですね。これはベトナム語では、熟語の一部としてですが、thủy(「水」のベトナム読み) や dịch(「液」のベトナム読み)、または lỏng(「流れることのできる状態」を指すベトナム固有語)を使うことが多いようです。

私は学生に日本語の「水」を教えるときは、大まかに「水:自然のもの、飲料水、水道水」「汁:動植物や食品を構成する液体」「液:工業製品、医学、科学」と教えるようにしています。すくなくとも「nướcをなんでも水と言わないように」とは釘を刺したほうがいいですね。