ビンズォン省へ焼けた戦車を見に行く

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ベトナムでは新暦の正月はあまり祝わず、休みも元旦だけであることが多いのですが、今年はCOVID-19の影響で1週間も休みになってしまったので、またバイクで近郊まで出かけてみました。

今回もgoogleマップで「di tích(史跡)」をキーワードに検索してみると、うちから30kmほど北、ビンズォン省(南部発音はビンユン省)ベンカット市社フーアン村というところに、「xe tăng cháy (焼けた戦車)」というものが見つかりました。

私は平和主義者で軍事的なものには若干の嫌悪感があるのですが、まぁたまにはこういった物を見るのも一興でしょう。またこの史跡のあるベンカット市社(日本で言う「町」)は、抗米戦争(ベトナム戦争)時に作家の開高健が南ベトナム軍の従軍記者を体験した際に駐屯し、危うく一命を落としかけた戦闘の場所でもあります。開高健の名とともに知られた街であるのにまだ未訪であったので、それもまた今回の訪問の動機の1つ。なお、開高は作中では「ベンカット」ではなく、アメリカ風に「ベンキャット」と表記しています。


グエン・オアイン通りを北上し国道1号線の向こうまで出て、ホーチミン市12区から橋を渡ってビンズォン省トゥアンアン市まで出る。そこから国道13号線に入ると、さすが工業団地を多数抱えるエリアだけあってトラックなど運送車両がたくさん。また看板などにも中国語が多数見られる。

ホーチミン市区部で見る外国語というと英語は別としてやはり韓国語と日本語が多いのだが、やはりこういう場所にくると違ってくるものである。

中国語と言っても繁体が多く、あきらかに台湾と書いてあるものも目立つ。


実は戦車を見に行く前に、トゥーヤウモット市にあるフーロイ(Phú Lợi)刑務所という史跡にも寄ってみたのだが、残念ながら閉鎖中?であった。ここはベトナム共和国(第一共和国)時代の共産主義者弾圧に用いられた刑務所である。これを書くまで知らなかったのだが、いわゆる「南ベトナム」は55年の総選挙のあとに出来上がったバオダイ帝-ゴ・ジン・ジェム政権を「第一共和国」、ジェムの死後にグエン・ヴァン・チューが掌握した政府を「第二共和国」ということもあるようである。うーん、勉強になる。


トゥーヤウモット市を抜けてまた13号線を北上。このあたりの13号線は3~4車線ある立派な道で、適度にワインディングしており、適度にアップダウンがあり、大変快適な道のため、ベンカット市社中心街はあっという間に通り過ぎてしまった。これはベンカット人民委員会庁舎ちかくにあった英雄像。なお開高健が駐屯した基地があったのはここからもう少し北東に行った Lai Khê のあたりで、戦闘があったのはおそらく更に東の「戦区D」史跡の方ではないかと思われる。まぁ、行ったところで何があるわけでもないので省略……。戦区Dはいつか行こうと思っていますが。


旧市街・ベンカット市場あたりで折り返して、省道748号線を南に。この道はそれなりに舗装されており、それなりに交通量が少なく、かなりの緑の中を走る田舎道でツーリングにも最適であった。ところどころにある脇道にはいると、この写真のようにゴム園などが広がっている。
 

例によってハンモックカフェで休憩。ブラックアイスコーヒー10kドン。


さてここから脇道を通って、省道744号線という大きな通りに出る。そこを少し南下すると……
 

ありました。ベンカット市社フーアン(Phú An)村ベンジァン(Bến Giảng)集落のホー・ハオ・ホン小学校の脇にある Nghĩa Trang liệt sĩ (烈士義庄:戦争英雄烈士廟)の敷地内に、ぼろぼろになった戦車が鎮座していました。
 


 


銘板を読んでみると、1974年5月に第9師団の主力・フーアン村人民遊撃隊が何十もの戦車を撃破した記念だとかなんとかと書いてあります。74年ですから、この第9師団というのは、南北統一より前に南部に成立していた(北の傀儡とされる)「南ベトナム共和国(Cộng hòa Miền Nam Việt Nam )」(ほら、あの上が赤色で下が青色に黄色い星の旗の政府)の軍制なんでしょうか。
 


烈士廟には、抗米戦争だけではなく、抗仏戦争や、カンボジアとの国境紛争?(読みにくいですが、「chiến tranh biên giới tây nam:西南辺境戦争」と書いてあります)の死者の名も刻んでありました。
 


こんなのに踏み潰されるのも、こんなのの中に閉じ込められて焼き殺されるのもまっぴらですねえ。戦争反対。
 



さて、帰り道はこの省道744をまっすぐ下ればまたトゥーヤウモット市に出られるのだが、それでは味気ない。また私はバイクで遠出したときは必ず渡し船に乗ると決めている。というわけで脇道にそれて、ビンズォン省ベンカット市社とホーチミン市ホクモン県をむすぶ Cá Lăng の渡し場までやってきました。渡し賃はバイク10千ドン、車は50千ドン。うーん、高い!
 


サイゴン川もここまで上流に来ると長閑ですねえ。ホーチミン市1区あたりの流れからは想像もつきません。
 


見ての通り流れはとても速く、渡し船もかなり流されています。
 


船を降りたら農村の中の素敵な道をぐねぐねと走り、省道15号を南下するとホクモン県市場の手前に出る。そこからはもう家の近くまで通っている Tô Ký通りを南下するだけ。今回の総距離は110kmほどでした。

(完)