7月の読書記録
7月はノンフィクション7冊、フィクション9冊で合計16冊。まんが14冊を加えて30冊。7ヶ月でようやく100冊を超えました(漫画除く)。
ノンフィクション(7冊)
📔『東南アジア史 −港市、女性、外来者−』/弘末雅士/ちくま新書
★★☆☆☆
タイトルに「港市・女性・外来者」とあって、いかにも民俗学や人類学の三題噺っぽいけど(「無縁・公界・楽」とか、「鉄・銃・病原菌」とか)、それについて書かれた部分はごくわずか。あとは広大な東南アジア全体の近代史をだらだらと述べているばかりで、著者が何を述べたいのかわからなかった。著者独自の意見や視点もなく、「なるほど」と思わせる説もなかった。あ、いや、ベトナムの鄭阮紛争に生糸ビジネスをめぐる戦いだという面もあったという話だけはマーカー引いたか。しかも「東南アジア史」といいながら、殆どはインドネシアのイスラム圏の話。折り悪く私は東南アジアでインドネシア(と東チモール)だけいままで行ったことがなかったので、ちっとも面白く読めなかった。
📔『貧困と脳』/鈴木大介/幻冬舎文庫
★★☆☆☆
これまで貧困についての社会学的ルポルタージュを書いてきた筆者が、脳梗塞から高機能脳障害になったことで、これまで貧困ルポの中で目をつぶってきた「なぜ彼らは○○ができないのか」(○○には「時間を守る」とか、「決断する」とか、「現状を認識する」とかが入る)のまったき当事者になった。その体験から社会的困窮者の行動を読み解こうという本。ただ内容的には、なんでもかんでも自分の脳障害に当てはめすぎな感じがある。「脳がこうなってるんだから、ライフハックでなんとかする」みたいなことにも章を割いていたが、それができるのは障害者になる以前の筆者に「文化資産(十分な教育、体験)」がきちんとあったからでは? 多くの社会的困窮者はそれがまったくないことを忘れてはいけない。
📔『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』/河野啓/集英社文庫
★★★★☆
私は「栗城史多」という登山家のことを死後初めて知ったんだけど(日本にいたけど、テレビとか見る人じゃなかったので)、さすがに彼が亡くなったときのネット上での大騒ぎ −とくに彼に対する、嘘つきだとか、詐欺師だとかの悪評− はよく覚えている。2000年代に「ニート登山家」としてマスコミに持ち上げられ、「登山の共有」を謳いカネを集めてパフォーマンス的に山に登っていたが、服部文祥に「登山家としては3.5流」などと言われたように、多くの本物の登山家からは邪道・問題人物として無視され、結局は凍傷ですべての手指を失い、8度目のエベレスト挑戦中に亡くなった「栗城史多」。彼に対する告発に近い、ただし愛もこもっている人物評の本。なおこの筆者は「ヤンキー先生」という人の告発本も書いている。私はその「ヤンキー先生」というのは名前しか知らないんだけど、もとは教師で普通に反戦・平和・人権思想を持っていたのが、マスコミデビューし、結局自民党のネトウヨ議員になった人らしい。こちらもいつか文庫になったら読んでみたい。
📔『人口ゼロの資本論 持続不可能になった資本主義』/大西広/集英社+α新書
★★★★★
要点を言うと、「労働者が子どもを産み育てられないレベルまで搾取されると、結局資本主義は自己崩壊しますよ。そうならないために資本主義は終わります。マルクスの言ったとおりに」という話。私はエラソーな顔して実際は資本論(の一般解説書)もちゃんと読めていなくて、チャレンジするたびに余剰が再生産のナンタラで数式にすると云々のあたりで挫折するんだけど、再生産には「人口維持」も含まれるのか。うーんそういうことか。
・日本の出生率は韓国・香港・台湾より「マシ」に見えるが、0-14歳人口の減りっぷりを見ると日本のほうがヤバイ
・韓国は少子化の代わりに大学全入社会になっているが、日本は貧困で大学に行けない若者が増えている
・ヨーロッパは昔から、周辺の安定を乱して貧困化させ、そこから搾取することで資本主義を成り立たせていたのではないか?
・江戸時代の江戸や大坂は、周辺からどんどん人が来るのに人口が増えない、すなわち吸い取った労働力に子どもを作らせない「ブラックホール」だった
・「大破局よ我のあとに来たれ」なので大資本は社員が子ども産めなくても平気。足りなくなる労働力はどこかから奪ってくればいい。それすらできなくなる前に俺は引退するから。
・資本主義が終わるのは、人類文明として以前からあったステップのひとつにすぎない。狩猟採取→小規模農業→大規模農業→初期工業……と時代が進んでいるが、進む直前には常に人口減という現象があった
……などなど、メモだらけになるほど面白かった。資本主義、共産主義、貧困、格差、搾取、ジェンダー(家事労働)などなどに興味がある人は絶対読むべき。
📔『食べ物から学ぶ世界史』/平賀緑/岩波ジュニア新書
★★★★☆
『砂糖の世界史』同様に、食物を通して歴史を学び、また資本主義を批判しようといういかにも岩波っぽい本。単に炭水化物を摂取するだけならイモがベストだが、貯蔵・計量という「権力者」の都合でコメ・ムギが「主食」となったのだ、トウモロコシなんか食った記憶なくてもカロリーのかなりをトウモロコシに依存しているのだその正体は「高果糖コーンシロップ」なのだ、みたいな話から、現在でも市場を独占している大企業のほとんどが「油」「小麦粉」「砂糖」でビジネスを大きくした会社なのだとか(あとは「鉄」もありますね)、実は第二次大戦勃発直後の日本は石油こそ産出しなかったが満洲の大豆、アジア沿海部の魚油、東南アジアや南洋のココナツなど世界の油脂資源の4割近くを勢力下に置いていたのだみたいな話まで、ためになる知識がたくさんあった。
📔『何もしないほうが得な日本』/太田肇/PHP新書
★★★☆☆
タイトルそのまんまです。だから日本は滅ぶという話。その結論を補強するための様々なデータが色々載ってます。うん、氷河期世代でいくつも零細企業を渡り歩いて、どこの会社でも管理職・幹部になる一歩手前で切られてきた俺からすると、全部「知ってた」。後半はなんかビジネス書みたいになってますね。
📔『世界史読書入門』/津野田興一/岩波ジュニア新書
★★★★☆
高校教師で山川の問題集なんかも作っている筆者が、世界史に興味がある人向けに短評つきで70冊くらい(?)の本を紹介したもの。箸休めに少しづつ読みました。私も歴史は好きなんだけど、アジア史に偏っているのよねえ。その地域の歴史をある程度詳しく人に語れるのは、日本・朝鮮・中国・ベトナム・タイくらい。ヨーロッパやイスラム圏は苦手。そもそも実はわたしは世界史未履修組なんです(1980年代~90年代に、本来は必須科目であった世界史を高校で選択科目として扱われた人)。ヨーロッパ史の通史まんがとかないかしらねえ。
フィクション(9冊)
📔『その呪物 取り扱い注意につき』/谷尾銀/角川文庫
★★★★★
「呪いに対する耐性」という才能を偶然見出された警察官が、オカルト事件を扱う秘密の課に抜擢され、民間の呪い師などと協力して事件を解決するという若干ライトめなオカルトミステリ。この作者、他に作品はまだないようなんだけどかなり面白く読めた。
📔『その呪物 取り扱い注意につき 歪な神様』/谷尾銀/角川文庫
★★★★★
(前項より続く)ので、読み放題には入っていなかった2巻目も購入。
📔『いけない』/道尾秀介/文春文庫
★★★☆☆
道尾秀介というと、「叙述イヤミス」の『向日葵の咲かない夏』のインパクトが強すぎていままで敬遠していましたが、読み放題に入っていたので手にとって見た。やっぱり叙述じゃーん。若干人情派っぽい連作。まぁ暇つぶしにはなった。
📔『教室がひとりになるまで』/浅倉秋成/角川文庫
★★★★☆
「学園超能力バトルミステリ」とでも言うんでしょうかね。最初は「デスゲームもの」かと思いました。まぁまぁ面白く読めました。
📔『ホワイトバグ 生存不能』『生存者ゼロ』/安生正/宝島文庫
★★☆☆☆
だ、大時代的な……。今の時代にこんなの書く人いるんですねえ。えーとつまり「日本沈没」みたいなカタストロフィものです。地球温暖化と生態系異常で人類が滅亡の縁に立たされるというお話。いやいや、地球温暖化は重大な問題です。そこはいい。作者の筆力や構成力に関しては目をつぶろう。だが俺がこういうカタストロフィもの作品に大きな声でいいたいのが、「原発どうなってんねん」ということである。『ホワイトバグ 生存不能』ではロシアやカナダの何割かが全滅したりしていますが、そんなんなったら、かなりの数の原発が制御不能になってチェルノブイリ/フクシマよりひどい事故がボコボコ起こって、そっちのほうだけでもう人類滅亡クラスの災害なんだけど、それには一切触れない、描かない。何年か前に『日本沈没』を現代風に再定義して漫画化した作品がありましたが、その作品でもそうだった。原発を完全無視しておいて「人類滅亡というタブー」を描いたつもりになっているのは個人的に許せないです。
📔『彼女は戻らない』/降田天/宝島文庫
★★★★★
ネットでの炎上、ストーキング、SNSでの個人情報流出……から起きた殺人をめぐる叙述ミステリ。エピソードひとつひとつ、登場人物ひとりひとりに非常にリアリティがあり、叙述であっと驚かせてくれるオチもあってとても面白かった。
📔『女王はかえらない』/降田天/宝島文庫
★★★★☆
上のと同じ作者の作品。小学校のクラス内カーストから始まるいじめ、対立がエスカレートしての殺人事件を軸にしたこれまた叙述ミステリ。ただ同作者2作目ということもあり、途中でオチがある程度見えた。とはいえ丹念に丹念に伏線が仕掛けてあってとてもおもしろかったです。文章も上手い。
📔『殺人出産』/村田沙耶香/講談社文庫
★☆☆☆☆
つまらん。本当につまらん。先月読んだ『コンビニ人間』を「いかにも文学賞新人賞でござい」といった感じと評したが、そこから何も進歩してないんじゃないかなこの著者は。表題作は「もし子どもを10人産んで人口増に貢献したら、誰でもいいから人を1人殺していいという社会だったら」という、藤子不二雄Aの「不気味SF短編」みたいな話だが、ただ奇を衒っているだけで、それで何を描きたいのかまったくわからん。そもそもこういう鳥瞰的視線から人の愛だ死だ性だを描こうという態度が気に食わない。こんなの読んでなにか感慨に浸れるのは背伸びしてる中高生くらいじゃないかな? え? この筆者1979年生まれ? それでこれ? どんな薄っぺらい人生送ってきたんだよ。ただ文章は上手いよなこの人。
まんが(14冊)
📔『激光仮面』/山口喜由/ビッグコミックスペシャル
★★★★☆
金属の使用どころか人を殺傷可能な兵器の再現も厭わない特殊な「激光服(ヒーロー着ぐるみ)」をめぐるキッカイとしか言いようのないストーリー。山口喜由は本当に「鬼才」の名にふさわしい。ベーアサーダ・理真まり編終了。今巻も最後のヒキがすごい。
📔『新九郎奔る!』20巻/ゆうきまさみ/ビッグコミックスペシャル
★★★★★
WEBサイト「ビッコミ」での連載のほうを先読みしているのだけど、それでも単行本は読み応えがある。20巻は明応の政変がついに起こり、足利政知の子・香厳印清晃が新将軍に担ぎ上げられ、河内の義材から諸将が去っていくところまで。ビッコミのほうは7月末現在で、細川家内衆の分裂のはじまり、前将軍足利義材の逃亡、また「伊勢新九郎の伊豆討ち入り」は、伊勢弥二郎、正親町三条実望などの「新九郎の身内」に唆された新将軍・義高(=義澄・清晃)が、「母と弟の仇である茶々丸を討て」という御教書を出してしまったところまで描かれている。史実ではこれに関する証拠はないが、ほぼこういう流れであったというのは定説。本作の第一話オープニングでは「主命により」茶々丸を討つべく堀越御所に討ち入るシーンから描かれていたわけだが、きちんと「主命」にまで持っていけたようである。
さて、この物語。ゆうきまさみ氏はどこまで描くつもりなんでしょうか? 第一話オープニングの堀越御所襲撃で終わらせるのかなあ? ただ史実ではこのあと茶々丸は南伊豆、伊豆大島、甲斐と流れて明応8年くらいまで生き残るので堀越御所襲撃までだとカタルシスがない。伊豆統一までやるとすれば明応7年の深根城(関戸氏)攻略は伊豆半島支配確立の大イベントだが「農民まで皆殺しにした」という伝説が残っているので漫画には描きづらい。あと葛山氏から側室をとる(明応8年くらい?)も描きづらい(これは連載最新で葛山氏の娘が新九郎に惚れたところまで描かれた)。小田原城の奪取は明応5~9年と定説がまだ定まっていない。冨樫倫太郎の小説では「深根城皆殺し」は茶々丸が「この農民共の中に俺の子種を何人も残した」と言ったため、葛山氏の娘は「後妻」、小田原城の奪取は「明応5年に奇計を用いて一時占拠」「明応9年に再奪取」で、この明応9年に氏綱も初陣ということになっている。氏綱の初陣は物語として区切りがいいだろうけど、ゆうき氏がここまで描くにはあと10巻くらいかかるんではないだろうか?
📔『数字であそぼ。』14巻/絹田村子/フラワーコミックスα
★★★★☆
まぁ、前巻とあまり代わり映えしない内容です。面白いけど。
📔『ら~めん再遊記』13巻/久部緑郎・河合単/ビッグコミックスペシャル
★★★★☆
「麺屋炎志・杉井の遺産」編が終わって、「評論家VSラーメン屋」3番勝負編開始。主人公たる「ラーメンハゲ」芹沢が、何かを成した大人らしく、文学・哲学・思想にきちんと向き合っているのが「大人の漫画」になっていて面白い。河合単の絵も好みです。
📔『そもそもうちには芝生がない』1~3/たちばなかおる/双葉社
★★★★★
おー、これ面白い。40代女性3人を主人公にした「フルハウス」ものといえばいいか。えーと昔、フルハウスというアメリカのドラマがあって、奥さんに先立たれたシングルファーザーと娘3人が、義弟・友人という2人の血縁のない男性と同居して暮らすコメディでした。本作は、不倫夫と別居し子どもを3人育てる漫画家のスミ、40過ぎての初妊娠に対し「障害のある子が生まれたら無理」という夫(要介護の義母つき)から逃げてきた恵子、水商売の世界に生きてきて若いヒモとついに結婚、というところで取り逃がしてしまったマキ、というかつて同級生だった40代女性3人の同居コメディです。恵子がかわいい。好みだ。
📔『怪異界』1~4/宮尾行巳/ニチブンコミックス
★★★★★
オカルト作品。あっと驚く結末が待っていた。面白かった。あと主人公がなんか「普通の女性」でいいなーと思った。「すこし抜けてる真面目な妹」感がある。この作者、なんか「『もっけ』を書いていた頃の熊倉隆敏」っぽさがあるなあ。
📔『五佰年BOX』1~2/宮尾行巳/イブニングコミックス
★★★★★
ある日古い蔵で見つけた「四角い木の箱」の中にある「動く箱庭」は500年前に繋がっていた。箱庭に干渉してしまうと因果律により自分の周りの歴史も変わってしまう。すでに幼馴染の性別が代わってしまった。さてどうやって幼馴染を取り戻すのか、というアイデア勝ちの一作。続きは来月読みます(電書予算を使い切った!)
📔『北イタリアまったり夫婦日記』
★★★★★
北イタリア在住・国際結婚・夫婦ともに漫画家の作者のエッセイ漫画。著者は日本での漫画家生活(別ペンネーム)に疲れて渡伊したそうな。うーんなんか見たことある絵だけど誰だろう?
年間累計
月 | ノンフィクション | フィクション | 非まんが合計 | まんが | 月の総計 |
---|---|---|---|---|---|
1月 | 8 | 15 | 23 | 12 | 35 |
2月 | 3 | 7 | 10 | 4 | 14 |
3月 | 4 | 4 | 8 | 9 | 17 |
4月 | 9 | 5 | 14 | 3 | 17 |
5月 | 9 | 10 | 19 | 7 | 26 |
6月 | 9 | 2 | 11 | 3 | 14 |
7月 | 7 | 9 | 16 | 14 | 30 |
累計 | 49 | 52 | 101 | 52 | 153 |