「ベトナム料理」を日本の食べ物に例えてみると

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ベトナムで暮らしていると、時々ベトナム人に聞かれます。「いつも日本料理を食べますか?ベトナム料理を食べますか?」

これを聞かれると一瞬固まります。日本料理? それってなんだっけ? 外国人の期待する日本料理だよな。スシ? テンプラ? ラーメン……? いやいや、外国人が期待するような日本料理なんて、日本人はそんなに毎日食べないですよね。

同様にベトナム人も、旅行ガイドブックに載っているようなベトナム料理を毎朝毎晩食べているわけではないです。基本的に私の家では妻が朝つくる1汁1菜の家庭料理を、朝食、お弁当、残ったら夕食にも、と使い回して食べています。

 
いま1汁1菜と書きましたが、ベトナムでは基本的に、「肉を使った主菜」「野菜をつかった副菜のスープ」のセットがポピュラーです。そして日本と違い、それを朝昼晩食べても平気です。日本人のように「3食同じ料理を続けて食べたくない」というようなことは言いません。

また、多くの日本人が「ベトナムって中国とか台湾みたいに朝は外食なんでしょ」と思っているようですが、これも間違い。たしかにどこでも朝の外食に困らないくらい店がありますが(ない地方もある。こちらの旅行記参照)、そういう食事をしているのは朝が忙しい商売人や、料理をしない一人暮らしの若者がメインだと思います。外食は体に悪いと思っている人も多いですから。

 

たとえば家庭料理はこんな感じ。これは1汁2菜ですが、白いご飯のほかに、豚リブの甘辛焼き、じゃがいもと人参のスープ、ゴーヤ薄切りの卵炒め。こうやってごそっと多めに作って、食卓を囲む全員でつつきます。

 
さて、日本人が「ベトナム料理」と思っているものが、どのように食べられており、日本の食べ物で言うと何に当たるかを、特に「食べる頻度」に注目して、独断と偏見に基づき下に挙げて行きましょう。

フォー

ベトナムで最もポピュラーな麺はなにかと聞けば、日本人は「フォー」と答え、ベトナム人は「麺って何?」と訝しがるでしょう。ベトナム語には「穀物の粉をねって細長くしたもの」の総称がないのです。まぁそれは別として、ベトナムで最もポピュラーな麺はフォーではなく、ブン(断面の丸い米粉の細麺)であると思われます。ではフォーは?

実は、フォーは家で作って食べるものではなく、外食メニューです。あんなスープ、家では作れませんから。また、ベトナム語の隠語で、「フォーを食う」といえば「浮気する」ことです。つまり「米の飯=家庭」「フォー=外」という考え方。だから「フォーに飽きて米を食う」は浮気に懲りるという意味ですね。

さらに言えばフォーは北部料理であって、様々な地方から人が集まるホーチミン市は別として、南部の田舎ではそう頻繁に見かける料理ではありません。

というわけで、日本の食べ物に例えるなら、東京や長野以外の地方における、(そこそこ外食する人にとっての)「蕎麦」でしょう。

生春巻き

透き通った米粉の皮からのぞくヘルシーそうな野菜と新鮮そうなエビは、多くの外国人にとってエキゾチックなベトナムの象徴になっているかもしれません。このため、観光客の集まる都心ではレストランのメニューとして普通に存在している生春巻きですが……

実はこれは、そういった外国人向けの店は別として、レストランや外食の店で食べるものではないです。本来は市場の隅でおばちゃんが作っていたり、夕方に屋台のおじさんが売り歩いているのを、学校帰りの女学生が買ってつまんだりする「おやつ」です。しかもベトナム北部ではあまり見ない南部料理です。

というわけで、日本の食べ物に例えるなら、大阪のおやつ「たこ焼き」でしょう。東京のサラリーマンがたこ焼きをたべる頻度を考えていただければ、ベトナムにおける生春巻きの地位も想像できるでしょう。あとベトナムでは生春巻きにスイートチリソースはつけません。トゥオンと呼ばれる味噌にピーナツや膾を入れたソースで食べます。

バインミー


日本でもかなり名前の知られてきたバインミーですが、本来 Bánh mì という語は、直訳すれば「小麦粉練り食品」つまり「パン」そのもののことです。

だから日本人の言う「バインミー」は厳密には Bánh mì thịt(肉パン)、bánh mì kẹp(挟みパン)のように言うべきものなんですが、日本人が食事のときに「麺にしようか、ご飯ものにしようか」と考えるように、ベトナム人は「ご飯にしようか、汁物(汁麺やお粥)にしようか、パンにしようか」と考え、パンにはなにか挟んで食べるのが普通なので、その何かを挟んだものも含めて「バインミー」と呼んでいます。つまり、バインミーは厳密に言えば料理名ではないのです。

さて、そんなバインミーですが、外食としての「バインミー」はそう頻繁に食べるものではありません。私でいうと、妻がフルタイム勤務で自分は何らかの事情で昼から出勤、朝寝して昼前に起きたが、食べるものがない、じゃあ出勤前にバインミーでも買って、会社の駐輪場のベンチで食うか、みたいなときに食べるものです。

というわけで、日本の食べ物に例えるなら、「駅のかけそば」でしょう。

ちなみに、前述したようにパンは主食のオルタナティブのひとつなので、パンだけ買ってきて、ありあわせのものを適当に挟んで食べることなら結構あります。前日の残りの肉料理とか、適当にスクランブルエッグを作ってとか、市販のハムを切ってとか。

バインセオ


よく「ベトナム風お好み焼き」と言われるバインセオですが、その呼称にはかなり違和感。作り方とか食感とか、これは「クレープ」のほうがずっと近いですよねえ。

さて、そんなバインセオを食べる頻度ですが……。あれ、妻と同居を始めて2年半で何回食べたっけ? 3回くらい? まーそんな感じです。外出したときに専門店を見つけたら「たまには食べるか」くらいの料理です。ああ、そういう意味ではまさに「お好み焼き」ですね。