ベトナムの教育について

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これまで5年ほどベトナムで日本語を教え、また教育管理・実習生送り出しにも関わった経験から、ベトナムの教育について書いてみようと思います。各単語の訳は基本的に私個人による訳です。

ベトナムの教育制度は非常に複雑で、幼児教育と職業教育に関しては、ベトナム語による資料でも内容が違うものがたくさんあります。ベトナム人に聞いても人によって言うことが違っていたりします。本記事はあくまでも参考としてお読みください。

また極力偏見は排していますが、人種・民族差別的な記述がある可能性があります。ご了承ください。
 

ベトナムの教育制度

幼児教育

ベトナムの幼児教育・保育制度は生後3ヶ月から開始可能です。3ヶ月から36ヶ月までの幼児の保育を nhà trẻ(幼児の家)と呼び、3歳から小学校入学までのものを Trường mẫu giáo(幼児教育校)と呼びます。更にこれをまとめ、実際の教育機関は Trường mầm non(芽生えの学校)と呼ばれています。
 

教育全般

授業時間は基本的に45分。ベトナムの教育では45分を 1 tiết(1節)とよび、これは小中高校だけでなく、大学や職業訓練校、専門学校、カルチャーセンター的な場所などでも普通に使われる時間単位です。教育内容としては日本とあまり変わりませんが、体育は日本ほど本格的にはやりません。また都市部では4年生くらいから英語を勉強したりもしています。時間割表のことは thời khoa biểu(時課表)と呼び、出席簿のことは sổ đầu bài(課題の頭のノート)と呼びます。またベトナムのテストの点数はフランス式の10点満点です。

なおベトナムではいまでも筆記体による教育が行われており、きれいな筆記体が書けるかどうかが教養のバロメーターになっている傾向があります。いまでは世界でローマンアルファベットの筆記体を常用するのはベトナムくらいしかなくなっている(フランスでも廃止されています)のですが。
 

普通教育

日本で言う小学校から高校までが giáo dục phổ thông(普通教育)もしくは giáo dục cơ bản(基本教育)と呼ばれています。学校不足・教師不足もあり、都市の一部を除き、教育は午前午後の入れ替え制です。

Trường tiểu học (小学校)は6歳から5年間です。これは口語ではよく cấp 1 (1級)と呼ばれます。またベトナム語には「クラス」だとか「階層」を指す lớp という語があり、lớp 1 といえば日本で言う「1年生」のことです。

Trường trung học cơ sơ (基礎中学校)は小学校卒業後の4年間です。 cấp 2(2級)とも呼ばれます。日本の中学校にあたります。制度的にはフランスのリセが基礎にあるため、中学・高校ともに「Trung học(中学)」と呼ばれます。ここまでが義務教育ですが、田舎ではまだ中学校をちゃんと出ていない子供もいます。またベトナムでは中学1年生とは呼ばずに、6年生、7年生、8年生とそのまま数字がたされていきます。つまり9年生までが義務教育です。

Trường trung học phổ thông (普通中学校)は中学校卒業後の3年間です。 cấp 3(3級)とも呼ばれます。これは日本の高校にあたります。また、いわゆる「スーパーエリート高」が国家制度として存在しています。
 

民族教育

また少数民族の子供の場合は、Trường phổ thông dân tộc nội trú(全寮制民族普通学校)というものがあり、小学校卒業後、もしくは中学卒業後に入学することが可能なようです。ベトナム語での教育について来れない子が入るという意味合いと、それぞれの少数民族の教育を行うという2つの意味合いがあるのかもしれません。
 

職業教育

さて、中学までが義務教育と言いましたが、では高校に行けない・行かない子はどうなるか。

Trung cấp nghề(職業中級)もしくは Trung học nghề (職業中学)は何らかの事情で高校に行かない・行けない子供向けの職業訓練校です。夜間の簡易高校がセットになっているようです。日本で言う「専修学校」です。ここを卒業した場合は、学歴を “lớp 9 + trung cấp”(9年生+職業訓練校) と表現することが多いようです。また、Sơ cấp nghề (職業初級)という学校制度もあるようですが、これは私もよくわかりません。

またもう一つの職業訓練校として、Trung tâm giáo dục thường xuyên(恒常教育センター)というものもあります。これは大人でも行けるようです。

さらに日本の日本の短大・専門学校にあたる trường cao đẳng(中等校)というものがあります。これは高卒もしくは専修学校卒で行くことができます。
 

大学教育

高校・専修学校を卒業後は大学教育です。ただし Trường đại học(大学)に行くためには、高校を卒業していなければいけません。通学期間は学科によりますが、4年~6年です。

日本の修士コースにあたるものは Cao học(高学)と呼ばれ、修士取得者は Thạc sĩ(碩士)と呼ばれます。また博士コースにあたるものは Nghiên cứu sinh(研究生)とよばれ、ドクター取得者は Tiến sĩ(進士)と呼ばれます。科挙由来の語です。これはかっこいいですね。憧れてしまいます。
 
 

ベトナムの教育の問題点

私の感じている教育上の問題をいくつかあげてみます。

  • 教育時間がたりない
  • なんといっても大きな問題は、都市部の一部を除き、普通教育が半日入れ替え制なことです。これは教師不足・学校不足・家庭からの要望が原因だと言われています。
     

  • できる子だけできればいい
  • ベトナムの学校では、教師のお気に入りのできる子だけができればよく、できない子は「できる子の真似だけしていればいい」という感覚が強いようです。このため、できる子は非常に優秀で好奇心も強く大変積極的に勉強をしているのですが、できない子は本当になにもできません。そもそも勉強する意志がありません。好奇心が全くありません。でも親に言われてしかたなく学校に来ます。
     

  • カンニングに甘い
  • ベトナムの感覚では「友達同士で助け合うのはいいこと」であり、「結果がよければ過程は気にしない」であり、カンニングに対する罪悪感というものがほとんどない人が目立ちます。また、教師もあまり真面目に取り締まりません。
     

  • 評価が甘い
  • これは私が教育部長として実習生送り出しで働いていたときに一番苦労した点ですが、教師による学生の評価が非常に甘い。たとえば平均点70点のテストで30点の学生に対し、平気で「trung bình khá」(中の上)と書いてきます。まったくできない学生に対して「やる気があります。がんばっています」としか書いてきません。学生が「かわいそうだから」だそうです。
     

  • 家柄・地域・民族を考慮した加点
  • これは高校の卒業成績などに行われているのですが、「共産革命功労者の家系である」「貧しい地域の出身である」「父母が障害者や病弱である」などなどの理由によよる加点が行われています。学業成績は純粋に本人の能力によるものでなければならない」という日本の感覚とは大きく違い、ここにも「かわいそうだから」が入り込んでいます。「共産革命功労者の家系であるから加点」なんて、ホー・チ・ミン主席が聞いたら泣きますよ。
     

  • 暴力教師
  • 日本でも30年前はそうだったじゃないか、と言われればそれまでですが、ベトナムではときどき暴力教師、学生の尊厳を激しく傷つける教師のニュースを見かけます。さらに教師というものを非常に尊敬する社会のため、思い上がっている教師も多いようです。
     

  • 教師の月給の安さ
  • その割には教職=低賃金というのが社会常識になっています。
     

  • 賄賂
  • 教師の月給の安さもあって、一部の低レベルな学校では、卒業や進級に教師への賄賂が必要なところがあります。
     

  • 卒業証書の偽造
  • また賄賂だけではなく、ベトナムではお金があればどんな証明書でも買えてしまいます。ここに先程述べた「結果がよければ過程は気にしない」感覚も相まって、卒業証書の偽造が絶えません。おそらく日本に技能実習に行っているベトナム人も、高校の卒業証書を偽造している人が5%くらいは紛れ込んでいると思います。
     

  • 少数民族問題
  • これは問題点と言ったら差別になりますから、ここに書くかどうか迷いました。日本人の感覚と違い、ベトナムにおける少数民族は、家庭内ではその民族の言語でしか話していないため、ベトナム語が苦手なまま中学生高校生になってしまうケースが見られます。いまの20歳くらいの子たちの親の世代で少数民族だと、小学校もきちんと出れていない人がまだまだいます。ベトナム語ができないのも仕方ありません。