発酵式CO2添加を科学的に考える①

116

CO2添加にはどんな方式があるのか?


アクアリウムで水草水槽をやる場合、水草の健全な育成にはCO2の添加が必須とよく言われます。写真のようにきれいに気泡がついた水草、きれいですよね。CO2の添加方法はいろいろありますが、もっともメジャーな3つのやり方が

・ボンベ式
・化学式
・発酵式

の3つです。ボンベ式は市販のCO2ボンベを利用するもので、親指ほどの小型ボンベがメジャーです。費用もそれなりにかかりますし、圧力も高いですから専用器具が必要でイニシャルコストもランニングコストも高く、取り扱いに注意も必要です。ベトナムでもCO2ボンベキットは普通に購入可能です。

化学式は近年中国で始められたもので、クエン酸と重曹を用います。ネット上の日本人アクアリウム業界では最近これが非常に注目を集めているようですが、どうも私は気に入りません。重曹は水にあまり溶けないので定期的な撹拌が必要なはずです。クエン酸ボンベから少しずつ重曹ボンベへ溶液を移動させて反応させるようですが、ボンベ間の流量調整に失敗した話もよく聞きます。また大きめのボトルを2本使うのもスペースの問題が出てきます。高圧になるので自作にも向いていません。日本だと「化学式CO2キット」がいくつか既成品で売られていますが、それでもYOUTUBEなどを見ているとトラブルを起こした報告がたくさん見られますし、メンテナンスも大変なようです。またベトナムにでは既成品の「化学式キット」はほぼ手に入りません。

発酵式は単純に砂糖水をイースト菌で発酵させて、アルコールとCO2を得るだけのものです。イニシャルコストは最安でしょう。日本だと近年は既成品の「発酵式CO2キット」も販売されているようです。

 

発酵式を改良しましょう

私が昔からやっているのは発酵式です。ただし反応速度のコントロールは自然まかせなので、日本では冬になると使い物にならない、夏は10日そこらですぐに発酵が終わってしまい補充が面倒、という問題点がありました。ただし私の今住んでいるベトナム南部は基本常夏(一番寒い時期の明け方でも22℃を切ることはない)なので、「冬問題」は起こりません。「夏問題」は、「我慢する」「発酵を抑えるなにかを用意する」でクリアできそうです。

この「発酵を抑えるなにか」ですが、日本でメジャーな方法は「寒天やゼリーなどで砂糖水を固めることによって、反応の起こる面を減らす」です。私もずっとこれをやってきたんですが、これ、ちょっと疑わしいんですよね。いくらゼリーや寒天で砂糖を抑え込んでも、結局は浸透圧ですぐに溶け出してしまうでしょう。実際にまだゼリーが残っているのに発酵が止まってしまう事も多く、アルコール濃度の上昇限度で発酵が止まったのかと水換えしてもあまり芳しくなく、試しにゼリーを舐めてみたら甘みは全く残っていなかったという経験もあります。

また、みんなかなり適当なレシピで砂糖水を作っているようなんですが、これもちゃんと計算すべきでは、と思います。

というわけで、いろいろ改良していきましょう。

 

容器の改良

気体を扱うので、発酵容器を密閉するのは最も重要な要素です。これまで日本では、ペットボトルのキャップを加工して、エアレーション用パイプを通す、ということをやってきましたが、ペットボトルキャップの樹脂は接着にあまり向いていません。というわけで以下のものを使います。


これは「化学式」用のキャップで、ベトナムでは中国製のものが通販で簡単に買えます。1個20千ドン(120円)程度です。


中にパッキンが仕込まれているので密閉能力も問題ありません。

化学式用なのでパイプをつなぐ穴がふたつ空いていますが、片一方にはコックをつないでおいて、普段は閉じていればいいでしょう。また、スタート時や、パイプが外れてエア抜けが起きたときは、コックを開けてここから空気を吹き込めば(注射器のシリンジを使うといいですね)すぐにボトルの内圧を高めることもできます。

またエアレーション用パイプも、シリコンなどのものはCO2はわずかに漏れるようです。PVCを使った耐圧パイプを使うといいようです。

 

砂糖水調合の改良

いままで砂糖水の調合に関しては、完全に適当でした。今回はきちんと化学反応式から計算していきましょう。

まず、発酵は以下の条件のいずれかで停止します。
Ⅰ.砂糖を使い果たしたとき
Ⅱ.エタノール濃度が上がりすぎたとき

エタノール濃度に関しては、自然状態だとだいたい8%くらいでイースト菌の活動限界に達するようです。つまり、発酵が終わりきったときの最終状態で「8%エタノール水溶液」ができればいいわけです。砂糖に関しては、使い切れないほど入れてしまってもいいですが、それももったいない話です。なのでしっかり化学的に計算します。

かっちり計算した量を使えば、「発酵停止=次のボトルに交換」です。まだ行けるんじゃないか?みたいな未練もなく作業できて精神衛生的にも宜しいです。

さて、砂糖の主成分であるショ糖からアルコール発酵を行う場合、途中のATPがどうだとかクエン酸回路がどうだとかを省略すると、以下のような式になります。

C12H22O11 + H2O → 4C2H5OH + 2CO2

高校の化学で勉強したmol数の知識や、小学校で勉強した濃度計算を駆使すると、「8%エタノール水溶液を合計900cc生成させる」ためには以下となります。

※2024年3月8日追記:記事アップ時、計算が少々間違っていました。以下は修正してあります。

1.上限アルコール濃度を8%とする。発酵完了時のエタノール溶液が800ccであるなら、それは736ccの水と64gのエタノールとなるべきである。
 
2.エタノール64gは 1.39molである。エタノールを4mol作るのにショ糖は1mol必要なので、0.348molのショ糖すなわち約120グラムと、同じく0.348molの水すなわち約6グラムが必要となる。なお同時にCO2が0.696molつまり30.62グラム(常温常圧で16.84リットル)生成される。
 
3.736+6≒742cc。742ccの水と120グラムの砂糖を混ぜると、13.912%の水溶液862グラムとなる。
 
4.14%砂糖水の常温での比重は1.035くらいらしいので、容積は概ね 892ccとなる。

 

発酵速度の調整

上でアルコール発酵の停止条件としてエタノール濃度と砂糖の消耗を挙げましたが、他にもイースト菌の活動を鈍らせる方法はあるようです。

Ⅰ.phを上げてやる(アルカリ性にする)
Ⅱ.塩水にする

phに関しては重曹を入れるという方法があるようですが、わざわざ重曹を買うのも面倒だし、発生したCO2が溶け込めば結局phは酸性に戻ってしまうのではという気もします。というわけで、家庭に普通にある塩を使うのが良さそうです。

ただしこれに関しては全くデータがなく、実際の実験で解明していくしかないようです。

 

実際の検証

以下に追記していきます。

第1回

 

ランニングコストは?

さてここで発酵式と化学式のランニングコストをきちんと比べてみましょう

発酵式
C12H22O11 + H2O → 4C2H5OH + 2CO2

化学式
C6H8O7 + 3NaHCO3 →  Na3C6H5O7  +  3CO2  +  3H2O

発酵式を3倍、化学式を2倍すれば、両式とも 6CO2になりますね。つまり6CO2を得るのに、発酵式だと3単位の砂糖が必要、化学式だと2単位のクエン酸と6単位の重曹が必要です。

※2024年3月8日追記:記事アップ時、ショ糖のモル数で計算すべきところをブドウ糖のモル数で計算し、結論が間違っていました。以下は修正してあります。

モル数で掛けてやると、砂糖は3×342=1026g、クエン酸は2×192=384g、重曹は6×84=504gということになります。

ベトナムでの価格を某通販サイトで比べてみます。砂糖1kgは概ね30千ドン(180円)で1026g30.78千ドン。クエン酸1kgも概ね30千ドン(180円)で384g11.52千ドン、重曹(ベーキングソーダ)1kgは概ね25千ドン(150円)で504g12.6千ドン。つまり発酵式30.78千ドンに対して化学式で24.02千ドン必要です。純粋に消耗品だけで見ると、化学式のほうが3割近く安いですね。ただしクエン酸はベトナムでは通販でしか買えないようなので(製菓材料店いくつか回ったが売ってなかった)、通販費用を考えるとどっこいどっこいですね。