2025年5月の読書記録

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5月はノンフィクション9冊、フィクション10冊で合計19冊。まんが7冊を加えて26冊。
 

ノンフィクション(9冊)

📔『モノ乞う仏陀』/石井光太/文春文庫
★★★★★
最近「虐待」「ネグレクト」「貧困」関係でよく名前を見かける石井光太氏の出世作で、東南アジア・南アジアのスラム街、被差別者についての真摯なルポルタージュ。いやー、よくここまで取材したなあ。ミャンマーの章(らい病患者が隔離されている政府監視下の村)、インドの章(マフィアの障害者物乞い・臓器売買ビジネス)、ネパールの章(麻薬中毒患者)に関しては命をかけての取材ともいえる。タイの物乞いの話では「マフィアが物乞いを仕切ってビジネスにしている」みたいなよくある噂に対して「そんなめんどくさくて金にならんことやるかよ」という当事者の意見を拾ってくれていて、これは私が以前から思っていたことと合致。でもそれがインドだと実際にあるのか(臓器売買とセットだけど)……。

ベトナムの章は、「トイ」さんという産婆さんのルポなんだがけど、ベトナム人で「トイさん」という人は聞いたことないなあ。たぶん「トゥイ( Thủy:水)、(Thúy:翠)、(Thùy睡)、(Thụy:瑞)」さんのいずれかの間違いじゃないかな? なおベトナムでも、タイの章でかかれていたような「ストリートチルドレンの物乞い」「貧しい/障害者の宝くじ売り」「流しの障害者カラオケ」は普通にいます。あと私の住んでいるホーチミン市北部のストリートチルドレンは巻き毛・色黒の、ひと目見てカンボジア系の子が多い。国道22号線まっすぐ行くとカンボジア国境だしなあ。


📔『「鬼畜」の家』/石井光太/新潮文庫
★★★★★★
星6つ。必読。これは重い。「厚木市幼児餓死白骨化事件」「下田市嬰児連続殺害事件」「足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件」という世間を騒がせた3件の「親による児童虐待殺人」を丹念に調査したルポルタージュ。私も幼い子を持つ身として、「どうしたらそんな残酷なことができるのか」という思いと同時に、「もし自分が……」という不安も持っている。昔鬱病でペット(爬虫類)の世話がちゃんとできなかったころなどに、「飼っていた馬に水をあげ忘れていたら干からびて死んでいたという悪夢」をなんどか見ていたことがあるので。ああ、帰宅したらムスメに水をたっぷり飲ませてあげたい……。
本作のタイトルは「鬼畜」がカッコ書きになっているのが大事なポイント。世間から「鬼畜」といわれた我が子殺しの犯人が、実は自分自身も親に不適切に育てられていたり、軽度の知的障害/社会性障害があったりするのが原因で「自分では一生懸命育てていた」「愛情を持っていた」つもりなのに結果「虐待死させていた」、というケースもあることを丹念に描いている。
幼い頃に母親の統合失調症に苦しめられたことが原因で「何事も現実を受け入れて受け身で過ごす」「人に苦境を一切訴えない」という人格に育ってしまった男が、妻(この妻のほうは明らかに「鬼畜」)が逃げて電気もガスも水道も止まったゴミ屋敷で幼い我が子とずっと一緒に過ごし「一生懸命育てていたつもり」で起こしてしまった「厚木市幼児餓死白骨化事件」は、もう切なくて胸がはちきれそうな気持ちになる。その子の死体には、飢餓状態ながらもある程度「育っていた」形跡があった。乳幼児というものは、本当に一切愛情を与えられなかったら、成長ホルモンの分泌が行われず成長が停止するはず。父親は長時間拘束の企業で働きながらも、毎日ゴミ屋敷でその子と遊んでやり、全く栄養は足りないながらも食事は与え続けていた、死体のそばにも子供と一緒に撒いて遊んだであろうペットボトルに詰められた紙片があった……。


📔『世界と比べてわかる日本の貧困のリアル』/石井光太/PHP文庫
★★★★★
石井光太3冊め。住居、路上生活、教育、労働、結婚、犯罪、食事、病と死、の9章に分けて、「貧困のかたち/特色」を途上国ではどうか、日本ではどうかとしっかり分析して書いている良書。途上国在住の私としても頷ける内容。


📔『パチンコ依存症から立ち直る本』/鈴木健太
★★★★☆
何度も言っているとおり私は「精神変容/依存症」と「山岳遭難死」の話が大好きです。これは自主出版?ながらもしっかりした文章で面白く読めました。


📔『大人たちはなぜ子どもの殺意に気づかなかったのか?』/草薙厚子/イースト・プレス
★★★★☆
「キレやすい子が増えた」のではなく「対人関係が上手にとれない子が増えた」といったほうが本当は正しいのである、とのこと。


📔『サバイバル!』/服部文祥/ちくま新書
★★★★☆
服部文祥の本ははじめて読んだ。やっていることは過酷なサバイバルながらも、どことなくユーモアがあって面白い。きっとこの人のサバイバルは、マジモンでありながらも、どこか「ごっこ遊び」の延長なのではないか(褒めてるんですよ)?

「現代社会では常に客であることを強いられる」ことから抜け出したいがためのサバイバル論とその実践の話。なるほどと思ったのは、「人間(の脳)は疲労してくるとどんどん自分の都合の良いようにものを考るようになる」「(サバイバルで)人から奪われるのは気力でも技術でもなくまずは体力。体力が奪われると気力が衰え、気力が奪われると技量を発揮させることがどうでも良くなり、そこから失敗→諦め→死になる」という話。なるほど。


📔『アルピニズムと死』/山野井泰史/ヤマケイ文庫
★★★★☆
日本を代表するアルピニスト・山野井泰史の自伝的な本。文章作品としての面白みはありませんでした。


📔『デモクラシーは仁義である』/岡田憲治/角川新書
★★★★☆
ちょうど安倍政権に対するデモが巻き起こっていたあたりの時代に書かれた本。でもいわゆる「リベラル」に対する問題点もきちんと書かれている。「民主主義でなく、民主主義を愛している自分、を愛している人はちょっとの意見の違いですぐ内ゲバになる」みたいな話とか。あと1930年代のナチス台頭に関して、水晶の夜事件だとか共産党放火濡れ衣事件は知っていたけど、「ヒトラーに批判的だった言論人、政党人、政治家が25000人以上も牢獄に入れられ、それに対する諦めが時代を変えてしまった」話は知りませんでした。

「過去の死者の声り、その時代の息遣いと、未来を担う者たちへの想像力」を大事にすることを念頭になんとか綱渡りするように合意を形成する事が民主主義なのかも知れない、という言葉には打たれました。


📔『母さんがどんなに僕を嫌いでも』/歌川たいじ
★★☆☆☆
虐待サバイバーの手記です。一応プロ作家らしいけど、ほぼ自費出版レベルの内容でした。


 

フィクション(10冊)

📔『カナリア外来へようこそ』/仙川環/角川文庫
★★★★☆
ハウスダストアレルギーなどの「敏感なひと」をめぐる日常の謎系ミステリ。まぁそこそこ面白く読めました。


📔『ある男』/平野啓一郎/コルク
📔『本心』/平野啓一郎/コルク
★★★★☆
平野啓一郎、はじめて読んだんだけど、読者のページをめくる手を止めさせない技術はすごく高いんだと思う。でもやっぱなんか「カルトっぽさ」があるなあ。うーん、これ以上他の作品は読まないかも。


📔『殺し屋やってます』/石持浅海/文春文庫
★★★★☆
職業殺人犯がその殺人のついでに「日常の謎」を解くという、ミステリの定石を逆手に取ったシリーズ。発想は面白い。内容もそこそこ楽しんで読めた。


📔『ゴールデンブラッド』/内藤了/角川ホラー文庫
★★☆☆☆
この作者なあ、「よろず建物因縁帳シリーズ」「藤堂比奈子シリーズ」はある程度面白く読めたんだけど、その他はなんというか「手グセ」で書いている感があって全然おもしろくない。本作も「大きなウソにリアリティをもたせるためのリアルな細部」にやり過ぎ感がありすぎてダメだった。


📔『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』/歌田年/宝島社文庫
★★★★☆
若干タイトルに偽りあり。印刷出版業界近辺で働く個人の紙商人である主人公が事件に巻き込まれ/のめり込んでいく様子にリアリティがないなあ。作者はもともと出版業界の人だそうだが、私も出版社で進行管理をしていたことがあり、紙屋さんとも付き合いがあったので紙についての話は懐かしく面白く読めた。


📔『逃げる女』青木俊/小学館文庫
★★★☆☆
逃亡サスペンスもの。サスペンス感を維持するテクニックとして「電話をかけた」という地の文のすぐあとに、電話を取った描写、会話をした描写を一切せずに、電話を受けた相手が電話を切る前に言った最後のセリフだけを書く、みたいなのがあるのな。うんうん。事件のバックにいるのが○○関連だというのは、ある程度日本の政治状況に敏感な人には予想がつくよね。「絶対逮捕できない男。それが検事総長だ」うんうん、韓国でも検察の権力が強すぎるのが問題になっていたような。


📔『藻屑蟹』/赤松利一/徳間文庫
★★★★★
震災と原発とカネで壊されていく青年を描いた社会派ノワール。ラストはちょっと尻切れトンボな気もするが面白かった。ただ主人公の青年の読書傾向はちょっとありえない感じ。不遇の文学人生を送った作者(ほぼホームレス状態から本作で大藪春彦新人賞を受賞しデビュー)の投影っぽいなあ。


📔『死ぬよりほかに』/福澤徹三/徳間文庫
★★★★☆
あー、こういう余韻のあるヒリヒリした短編を読みたかったのだ。死にまつわる短編が7つ入っています。船戸与一の『新宿・夏の死』に近いですね。


📔『侠飯(おとこめし)』/福澤徹三/徳間文庫
★★★★☆
以外にあれこれ手広く書いてる作家なのな。前に『極道主婦』という漫画があってプチヒットしていたがアレは何が面白いのか全くわからなかった。「就活中の大学生がひょんなことからヤクザを家に匿うことになって、そのヤクザが家事とくに料理のプロで……」という本作はそれに近いのかと思いつつ、きちんと主人公のビルドゥングスロマンになっていて良作でした。悩める若者がシンプルに生きている特殊な人に出会って変わっていくタイプの話です。


 

まんが(7冊・読み散らかした適当なのは除く)

📔『山と食欲と私 Extremers』/信濃川日出雄/新潮社
★★★★☆
「山と食欲と私」と冠しているけど、「山と食欲……」にはほぼほぼ関係ありません。「食い物xサバイバル」をテーマにしたアンソロジー漫画集です。角幡唯介の「極夜行」のコミカライズも入っています。


📔『「子供を殺してください」という親たち』17巻/押川剛, 鈴木マサカズ, うえのともや/バンチコミックス
📔『それでも、親を愛する子供たち』3巻/押川剛, 鈴木マサカズ/バンチコミックス
★★★★☆
惰性で読んでいる。この作者の漫画はコマ割りがおおまかすぎてあっという間に読み終えてしまいコスパが悪い。


📔『兄だったモノ』7巻/マツダミノル
★★★★☆
おっ、これはめっけもの! 面白い! と思って読み始めたんだけど話が全然進まーん。早いとこ決着してくれ。


📔『COCOON』/今日マチ子/秋田書店
★★★☆☆
最近またバカ自民党政治家の失言で脚光をあびた「ひめゆり部隊」を描いた漫画。「悲惨な事実だけを淡々と描きました」系の作品なんだけど、私はそういうのには反対。バカな読者はちゃんと理解しないものなんだし、やっぱり作品には作者のメッセージがちゃんと載ってないとダメだと思う。


📔『大乱 関ヶ原』5巻/宮下英樹/SPコミックス
★★★★☆
ようやく関ヶ原前夜までたどり着いた。本作は初老に入ってキレやすく奢りやすくミスしやすくなった家康の描写が良いですね。


📔『リエゾン』20巻/竹村優作, ヨンチャン/モーニングコミックス
★★★★☆
一時期絵が荒れたりしていたが最近はまた丁寧に書かれていていい。ストーリーはようやく終わりに向かってきたか。


年間累計

ノンフィクション フィクション 非まんが合計 まんが 月の総計
1月 8 15 23 12 35
2月 3 7 10 4 14
3月 4 4 8 9 17
4月 9 5 14 3 17
5月 9 10 19 7 26
累計 33 41 74 35 109