技能実習生Q&A(2025年7月版)
Q0. そもそも、いま日本で働いている外国人って、どんな人がいるの?
A0. 在留資格ベースでいうと、以下になります
- 技能実習生:1号(1年目)、2号(2~3年目)、3号(4~5年目)の3種があり、業種が限定されている。業種によるが3号までやれば最大5年働ける(3年が一番多い。また移行時には試験がある)。ビザの申請が非常に容易。生涯1度しかできない。3ヶ月に1回の職場視察義務をもつ「管理組合」が書類作成や生活のサポートなどを行い、その代わりに受け入れ企業は組合に管理費を収める(その一部が母国の送り出し機関に支払われる)。あくまでも「研修」なので、「研修計画書」「教育日報」などをきちんと作らないといけない。また入国前に母国でのオリエンテーション教育(実際は日本語教育も)、入国後1ヶ月の事前教育が義務付けられている。
- 特定技能:1号(5年)、2号(無期限)の2種類がある。業種が限定されている。「登録支援機関」による書類の管理が行われるが、技能実習生のような管理義務はない。1号は「業種別試験と日本語N4相当の試験に合格」もしくは、「同じ業種の技能実習生2号を優秀な成績で終わらせた者(実際は「問題なく終わらせた者)」が行うことができる。2号の試験は難しく狭き門だが、2号になれば無期限で働け、配偶者や子どもを呼び寄せることもできる。
- 日本人の配偶者等:日本人同様に無制限で働くことができる。
- 高度人材:厳密には「技術・人文・国際貢献ビザ」。大卒者(一部短大卒も可)が企業に直接雇用される。通訳、ホテルのコンシェルジュ、プラントエンジニア、教師など限定で、単純動労には就けない。
- 留学生:週に28時間までの「アルバイト」が可能。
- 特定活動:その他。ワーホリ、難民、他のビザ切り替えに時間がかかっている場合、技能実習などを満了したが帰国できない事情がある場合(COVID-19のときなど)など。
Q1. 技能実習なんて言っておいて、ただの労働者じゃないですか
A1. そのとおりです。ただしベトナムではふつうに xuất khẩu lao động (出口労働=労働者輸出)と言われており、日本政府の建前は日本人同様に信じていません。もちろんthực tập sinh, 直訳で実習生という語もあって普通に使われていますが……。だからこの事をもって「外国人が騙されている」というのは、違うんじゃないかと。
また、ベトナムの田舎のあまり学のない人たちにとっては、「毎日決まった時間に仕事に行く」「休むとき遅刻するときは連絡する」「道具を使ったら元の場所に戻す」「機械をバラすときはネジやナットをなくさないようにきちんとアルミパンの上に置く」みたいな、一見当たり前のように見えることが出来ない(知らない)人が多いです。ですので、どんな単純労働であっても「日本や韓国や欧米で働いたことがある」というだけでスキルアップになります。ベトナム帰国後も外資系の給料のいい工場で働けます(現在、ベトナムは外資系企業の投資に依存した加工貿易国家となりつつあります)。
Q2. ふつうに労働ビザを出せばいいんじゃないのか?
A2. いま日本が求めている/日本に来てくれるのは「低レベル人材」です。日本語は大してできない、あまり学もない人たちです(ベトナムの田舎は全日制高校に行けなかったレベルの子が結構います)。その場合、普通に労働ビザを出して自由に就職させたほうが搾取される機会は増えるんじゃないかと思います。日本語をろくに喋れない人が、不法行為がないか監視する役目を背負っている管理団体などもないまま「自由に」労働契約を行った場合、むしろ違法労働をさせられる可能性、泣き寝入りする件数、暴力団の餌食になる可能性は増えると思います。すくなくとも今の日本の労働環境では。また、日本の不動産業者はそういう人に普通にアパートを貸してくれますか? 普通の日本人は差別せずに隣人として迎えてくれますか?
Q3. みんな100万円の借金を背負ってくるって話ですが
A3. それは違法な送り出し機関の話です。また現在ベトナムでは悪徳業者の取り締まりは非常に厳しくなっています。ベトナムの法律では3年実習で取っていい手数料は3,600ドルとなっており、60ミリオンドン~90ミリオンドン(35~51万円)程度というのがまともな送り出しじゃないかと。3年間の技能実習(入国後1ヶ月は事前語学研修、労働期間は35ヶ月)で分割払いすると1ヶ月1万円~1.45万円の返済です。まぁ大抵の人は最初の1年で返すので、月3~4万円ですね。
ただしベトナム国内には、「日本行きを手伝ってやる」といって20万円程度のお金をむしり取った後に、送り出し機関に紹介を行う悪徳ブローカーがいるのは事実です。彼らの餌食になった場合は、必要経費は1.5倍↑になってしまうこともあります。そんな事がないように、私たちのような送り出し機関はいま一生懸命地方に支店を出したり、大学や高校の進学就職フェアにブースを出して直接の候補生集めを頑張っています。
また当然のことですが、送り出し機関も日本の管理団体も金融業のライセンスをもっていませんから、関係諸機関が候補生に出国費用を貸すことはありません。実習生は出国費用が足りなければ「自力で」銀行などから借金をするわけですから、技能実習関係者が「前借金で縛る」という表現にはあたりません。そこは人身売買にならないように、ベトナム側も日本側も慎重にやっています。地方出身の日本人が東京での就職に備えて自分でアパートを借りたりノートパソコンを買ったりスーツを買ったりするのに自発的にサラ金からカネを借りたケースと変わりません。
Q4. ベトナムももう随分豊かなんじゃないんですか?
A4. ホーチミン市都心のパソコンがある程度使える若いオフィスワーカーの月給ですらいまだ12~15ミリオンドン(6.8~8.5万円)です。工員だと8ミリオンドン(4.5万円)、小売店員で7.5ミリオンドン(4.2万円)です。ホーチミン市のような「区分I」の最低給与は月給4960千ドン(2万8千円)、時給で23800ドン(135円)です。今技能実習生を目指しているような農村の家庭は、世帯現金収入が月3万円程度という家も珍しくありません。因みに私の義姉は工場(ホーチミン市の隣のドンナイ省)でパートタイム労働者をしていますが、日給1,100円くらいです。日本では「タイの物価はもう日本以上だ」みたいなデマが定期的に出回りますが、全く実態に即していません。そういう話をする人は外国人観光客が来る都心のおしゃれな地域しか見ておらず、庶民特に田舎の人の生活を全く知らずに話しています。
Q5. 妊娠すると解雇されるんですか?
A5. 数年前に私の教え子が妊娠しましたが(相手のベトナム人男性は逃げました)、すぐに本人から相談がありました。受け入れ企業と協議の上、ベトナムに一時帰国して出産、体調が戻り次第両親に赤ちゃんを預けて日本に戻り実習再開ということになりました。相談できる体制づくりが大事です。
Q6. 日本での労働は最低賃金も無視している酷い仕事ばかりじゃないんですか?
A6. 「よほどのことがないと転職できない(辞めることはできる)」「住むところを自由に決められない」という点を除けば、労働基準法はきちんと適用されます。もちろん最低賃金も守られています。つまりは守っていない一部の会社が悪い訳で、これは技能実習生の問題ではなく「日本の労働問題」ではないでしょうか? そういう会社は日本人相手でも法律守らないですよね?
なお技能実習生が辞めるには「実習継続困難届」という書類を作成し、外国人技能実習機構(OTIT)に提出する必要があります。さらに言えば、3年の約束で日本に来た人も、途中で「2号に移行はせずに帰国します」といえば1年で辞めて帰国することがふつうに可能です(2号移行試験に落ちた場合も帰国)。これは「実習困難届」はいりません。転職はほぼ認められませんが、実習先企業や管理組合が違法行為や悪質な行為を行ってライセンスなどが取り消された場合は、同業他社への転職が行われることもあります。
Q7. ほら、その「転職できない」ってのが問題なんでしょう
A7. はい、それはたしかに問題だと思います。韓国なんかでは2回まで転職できる「スリーアウト制」を導入しています。ただし技能実習生は前述した管理組合による3ヶ月に一回の実習先視察義務などがあり、また問題発生時は技能実習生機構に母国語で相談することもできます。このあたりは一般労働者よりきちっと守られています。問題は、その義務を全然守っていないめちゃくちゃな管理組合・受け入れ企業が存在しているということなのです。そこはびしびし取り締まるべきです。
また2027年より「技能実習生制度」は「育成就労制度」に法改正され、条件付きで2年目以降の転職が認められるようになります。まだ詳らかではありませんが、地方から都会への労働力流出を防ぐために、都会への転職の間口を絞る制度を作るようです。「最低賃金いくら以上の地域では日本人従業員x人に対して実習生はy人しか受け入れられない」のような制度にするらしいという噂は聞こえてきています。
Q8. 日本での住環境とか酷いんでしょう? 相部屋とか。
A8. 日本人とベトナム人ではそのへんの感覚が全く違い、実は日本側が個室を用意してもベトナム人は相部屋を希望することが多いです(ただし若い世代は少しずつ変わってきている)。ベトナム人はふつう一人暮らしを好みません。それからあなたは、田舎からホーチミン市に出稼ぎに来たベトナムの肉体労働者がどんなところに住んでいるか、見たことないでしょう。すごいですよ。「窟」としか言いようがないです。
Q9. 「97%のベトナム人実習生が日本へ好印象を持っていたが、実習終了後はそれが58%になっていた」というニュースをよく聞きます
A9. 「外国で働く」って普通はそうなるんじゃないですか? 日本人の「パリ症候群」(パリに憧れて渡仏した日本人が、現地の生活の困難さにショックを受けてうつ病になる)なんてのもありますよね。逆にベトナムやインドネシアにやってきて、いろんなクオリティの低さに絶望して数年で帰国する日本人は8割じゃ済まないでしょう。
Q10.低賃金で働く外国人実習生が日本の労働市場を破壊しているのでは?
A10.技能実習生の雇用には日本人の雇用よりお金・コストがかかっているケースがほとんどです(保険も年金も日本人同様に払う義務があります。雇用保険はいらないと思うけど)。最低賃金を守った上で、管理組合に管理費を払い、また採用の際には現地に出張して面接をして、必要に応じて通訳を雇って、それから週末にはバーベキューや日本文化体験に連れて行ってあげて……。それでも日本の地方からは、「どれだけ給料を出しても日本人が集まらない。集まった日本人もすぐ辞めてしまう。外国人実習生が頼みの綱」という声が聞こえてきます。先日聞いたケースでは、九州南部で月収35万でも人が集まらないとの事でした。日本の地方労働市場は、あなたや私の想像以上にガタガタのようです。また「外国人は不満があればちゃんと言ってくるし、話し合えば辞めない。でも日本人はなにも不満を口にせずに、ある日突然辞めてしまう。これでは事業計画が立てられない」という声も聞こえます。