ベトナムの地方行政2025年大改革
2025年6月から、ベトナムの地方行政区分に愕然とするほどの大改革が行われました。正式な運用開始は7月1日からです。
28省6市(34省市)にスリム化
これまでの57省6市=63省市の「省級」行政にて大合併を行い、慣れ親しんだ29もの省が消滅となりました。日本で言えば「島根は広島に併合」「富山と福井は石川に併合」のような大改革です。あたらしい省割りを見てみると、これはどうも2040年以降に予想される人口減少開始を睨んだものに見えます。山岳の人口の少ない省を海沿いの省と合併のようなことがあちこちで行われました。
まずは北部を見てみましょう
※「トゥアティエン=フエ省」は2024年に「フエ市」に変更されていますが、この図では旧名のままです。
生き残ったのはもともと面積の大きかった西北3省(ディエンビエン省、ライチャウ省、ソンラ省)、中北部3省(タインホア省、ゲアン省、ハティン省)、中国国境である程度栄えている3省(カオバン省、ランソン省、ソンラ省)、首都ハノイのみです。うーん、ゲアン省とハティン省は1976-1991年まで存在した「ゲティン省」が復活するかと思ったんですが、なりませんでした。
私の行ったことのなかった省のうち、ハザン、バックカン、ホアビンの3つが未踏のまま消滅してしまいました。くやしい。
つづいて南部を見てみましょう
南部は北部以上に大鉈をふるわれたようです。そもそも人口密度が高く、面積の小さい省が多かったからでしょうか。
特筆すべきは、避暑地ダラットで有名なラムドン省の超巨大化です。観光地とはいえ少数民族の多い貧しい地域です。ここに限らず、西部高原の少数民族エリアはすべて海のある巨大な省となりました。なおこれにあたって新しい省名は、多くの場所で海沿いにあったベトナム語側の省名ではなく、山岳にあった少数民族語側の省名のほうに統一されました。社会主義国ならではのバランス感といえるでしょう。
またホーチミン市は、ベトナムでもっとも平均収入の高いビンズォン省、ビーチリゾートのバリア=ブンタウ省を併合して人口1400万人の大ホーチミン市が誕生しました。押しも押されぬ大メトロポリスの誕生です。
さてこの合併、庶民の反応はというと、驚くには驚いていますが、慣れ親しんだ省名がなくなることにそこまでのショックは受けていないようです。ベトナム人の愛郷心はとても強いですが、それとは別に「政府のすることは政府のすること。俺達の生活とは関係ない」という感覚も強いですからね。また、省の吸収合併・名前の変更はかなり頻繁に行われているので(1990年代にも合計で20くらい?)、そこまで衝撃を受けることではないのでしょう。
「省級」→「村級」の2段階にスリム化
これまでベトナムの行政区分は「省級」→「県級」→「村級」の3レベル、具体的には以下のような感じでした
こちらも大鉈が振るわれ、2段階目の「県級」がすべて廃止となりました。また3段階目も「市鎮」をなくし、「坊」「村」の2つだけになりました。つまり以下のようになります。
またこれでは行政地区が細かくなりすぎるので、ほとんどの場所で2つか3つの行政区が合併となっています。具体的には以下のような感じです
都市部の例として私の住んでいる地区:
ホーチミン市ゴーヴァップ区第12坊 →ゴーヴァップ区は廃止、12坊は14坊と合併して「アンホイタイ坊」に → ホーチミン市アンホイタイ坊
農村部の例として妻の実家:
ドンナイ省チャンボム県ドンホア村 →チャンボム県は廃止、ドンホア村はチュンホア村とタイホア村と合併し「フンティン村」に → ドンナイ省フンティン村
さてこれに対する庶民の反応は……ほとんどありません。というかあまり話題にもなっていません。ただ公務員の世界は大変でしょうね。これまでのポストがかなりなくなりますから。新聞によるとこの行政地区再編により、この先5年で公務員の給与や行政経費などが、直接だけで190兆ドン(≒1兆円)の経費削減になるそうです。
なお、ホーチミン市はこれにより、50年前に消滅した「サイゴン」という地名が復活します。現在のホーチミン市1区ベンゲー坊が、グエン・タイ・ビン坊の一部とダカオ坊の一部を併合し「サイゴン坊」となります。これは嬉しいニュースです。
さて、これに関する私の感想ですが、「これはいい」。地方自治はかくあるべきだと思うし、県級の慣れ親しんだ地名は消滅せずに「坊」や「村」の名として引き続き使われるので問題ありません。また、いままで数字で呼ばれていたホーチミン市の多くの坊の名がすべて固有名詞になったこともわかり易くいていいです。それから、本来の地名とは関係ない名で呼ばれていた地区が本来の名に戻ります。たとえば私の住むゴーヴァップ区第12坊ですが、19世紀~20世紀初頭の地図をみると、「ゴーヴァップ」と呼べる場所じゃないんですねここは本当は。本来のゴーヴァップは現在のゴーヴァップ市場周辺であって、そこが「ゴーヴァップ坊」となり、ウチの地区はもともとの「アンホイ」の西半分なので「アンホイタイ(安會西)」になる。これは地名学的にも良いことだと思います。
さて、今回の再編成で旧ホーチミン市エリアは273あった「坊」「社」が102まで整理されました。102ならなんとか覚えられそうですね。これからは街を移動するたびに「この辺はタンディンだな」とか「この辺がビントイか」と新しい地名を確認しながら往くことになりそうです。